日々是なり



 赤也は部室の机に、頬をつけて横を向いた。
「いいなあ、幸村部長は」
 幸村は正面に座って、丸い目をした。髪の毛が、微かに揺れた。首を傾げたのだ。
 切原赤也の発音は、いいところ「ブチョー」である。どうにも尊敬度が不足していた。しかし幸村は知っていた。赤也は尊んだりしない。決して。自分を、自分達三人を。押さえつけているだけなのだ。実力で伏せているから、大人しい。もしも、それを越える力を得たならば、すぐさま唾と暴言を吐くだろう。いままで、とっておいた分の。
 そんな赤也が、良かった。
「なんだい、それは」
 にこにこしながら、聞いている。手はすっと頬へ伸びた。赤くなっている。副部長に殴られたのだ。
「だって部長には副部長、やさしーんだもん」
「やさし…?」
 幸村はくす、と笑った。
「やさしいなんて、変な言い方をするね」
「だってえ」
 赤也は反対側を向いた。毛糸の固まりが動いているようで、可愛らしいと言えば、かわいい。
 赤也は続ける。
「絶対、一回だって、怒ったこと、ないッスよ」
「ああ真田、委員会は?」
 幸村は口を挟んだが、赤也に対してではなかった。
「終わった。まったく決定事項も決めずに長々と……」
 赤也は上半身を飛びおこした。幸村の身体が死角になっていたのだ。
「………わわわ」
 真田は聞いていたらしい、そうして、聞き流す気もないようだった。いわゆる気の利いた、の二文字は持ち合わせぬ男である。
「…幸村は、怒られるようなことはしていないからだ」
 真田の声が、低くなった。
「例えば」
「へ」
 赤也はアンテナで(あのすごい頭だろうか)危険を察し、逃げようとしたが、捕まった。
「朝練に遅刻もしてこない、テストで赤点も取らない、居眠りが過ぎると担任に顧問が進言されたりも…」
「わーわーわー」
 赤也は大声で遮った。
「真田」
「なんだ幸村、こういう奴は、ビシッと言わねば聞かぬのだ。後回しにすると紙切れの如く飛んでしまう」
「……わかった、よ」
 幸村は右手を顔の横で振った。赤也は口を尖らせている。
「どー聞いても、のろけじゃろーあれは」
 ずっと見ていた仁王がセラミックの爪磨きで形のいい自分の指を研ぎながら言った。本人曰く、集中できるのだと、練習中でも隙を見てやっている。おかげで彼の大きめな爪は、日に輝くほどだった。
「切原君、何を聞かされているんだが」
 柳生はガットの硬さを調節している。
 幸村は微笑んでいる。
 まさに、幸せそうだった。




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